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小さな冷たい手や 冬の日の髪の匂いも
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昨日は追い出しコンパ、通称追いコンだった。部活の4回生の先輩の引退飲み会だ。6時に三条集合であったが、同じ回生のサカモト、たッちゃんとはちょっと早めに集合し、三人でミスドでしゃべっていた。たっちゃんは短大を留年し、春からは介護士として福祉施設で働く。春からの生活をやたらたっちゃんは心配し、やっていけるのかとか、養っていけるかとか、離婚したらどうしようだとか、家は買えるのかだとか、多くの悩みを俺とサカモトにぶつけていた。 もうカフェオレのお替りも三杯目に突入していた。俺は就職すら決まっておらず、サカモトは留年の危機にある。たっちゃんは卒業も就職も決まっているのにも関わらず悩みはつきてない。それぞれの悩みを抱え、たっちゃんは嘆き、俺はその悩みにうるさく突っ込み、サカモトは苦笑いで話を聞いていた。おかしな三人組はミスドの一角で異様な空気をもう二時間近くも発している。 集合時間に近づき、集合場所へ向かう。あいにく京都は今週は雨らしく、オールスターは見事に浸水。ぐちょぐちょのまま集合場所に到着。春休みを挟んでいるので懐かしい顔ぶれも多い。俺たち三回生はやっぱり就職活動の話をしてしまう。 全員そろい居酒屋に移動。一回生から四回生全員がそろう最後の飲み会だ。四回生は羽目を外し酒をあおるように飲み、ビール瓶イッキをしていた。二回生もそれに便乗。三回生は基本的に大人しいやつらばかりだから、羽目を外して飲むことはあまりない。しかし、写真部内で一番酒に強いのは三回生である。一角でサカモトと鍋をつつきチビチビとビールを飲んでた俺であったが、四回生に捕まり、結局ビール瓶イッキをさせられた。宴会場がカオス状態になってきた頃に一次会はお開きとなった。最近はこんな馬鹿騒ぎのテンションについていけない。妙に冷めている自分自身に気がつきさらに冷めてしまう。 雨の中の鴨川の河川敷で最後の挨拶を行い、写真部一向は二次会会場へと移動する。二次会でも盛り上がっているメンバーは盛り上がっていたが、俺は仲のいい後輩と最近読んだ小説や映画の話をしていた。なかなか出てこないつまみにイライラを募らせ、梅酒の甘さで喉がゆっくり熱くなる。 「もう頭いたい帰ろう」 と言われたので、四回の先輩に最後の挨拶をしてまだ大勢部員達がいる二次会会場をあとにした。俺は明日企業説明会があるのだ。どのみちそこまで長いは出来なかった。京阪電車に揺られ四条をあとにする。最寄り駅につき、コンビニでアイスとお茶を買う、まだ頭が痛いとつぶやいているので、クリスタルガイザーも買う。 部屋に着き、タバコを一服。ゆらゆら煙は排気口に吸い込まれていく。タバコの煙は青白いが肺に入れたあとに吐き出す煙は少しクリーム色だ。なんでだろ?など思っていたら携帯が鳴り、サカモトからもう少ししたら行くと言う連絡をもらう。 頭を抱えて唸っている人がいる。寒い寒いと言うので暖房をつけカーディガンを貸す。勝手にベットに這い上がり寝てしまった。 明日の説明会の準備をし、カッターシャツにアイロンをかけていると、ベットからむくむくと頭を起こし、こんな話をし始めた。 「同性愛についてどう思う?」 「!?そこまで深く考えたことはないよ、でも恋愛感情なんて人間の本能だろ?」 「子孫繁栄の本能が恋愛感情なら、同性愛は本能を超越している」 「つまり?」 「異性を好きになることが本能なら、そこには子孫繁栄というものが存在する。しかし同性愛からは何も生まれない。それは本当に人としてその人が好きであるという証拠だ。男女で人間を分けるならば世界の半分の人間はその世界には入ってこれない。人を想う形の究極の形でしょ?」 何をいきなり言い出すんだ。なんてことは思わなかった。そんな話さえ当たり前に出来る。それにその子の言いたいことはとてもよくわかった。結局そのまま朝の五時まで話をしていた。 少し眠り、起きてすぐにスーツに着替え大阪に向かう。乗り換えの駅でサヨナラを言い、俺は大阪を目指した。説明会は淡々と進みいつの間にか終わっていた。そのまま地下鉄に乗り込み梅田を目指す。待ち合わせをしていたのだ。 ヨドバシカメラの前に懐かしい面影を見つける。宮野だ。最後に会ったのは9月だから半年振りくらいだろうか。また宮野はやせているようにも見えた。二時間ほど晩御飯をゆっくり食べながらお互いの近況を話をした。宮野も就活で大阪に来ていたのだ。ご飯を食べ終わると宮野はすぐバスに乗り込んでしまった。 そのあと俺は阪急梅田駅から京都に戻った。淀川を越える時の夕日がまぶしく、ウォークマンから流れてくるスピッツの「ありふれた人生」と言う曲ととてもマッチしていた。そこで説明会の会場に傘を忘れたことに気づいた。高架橋の街並みはどこまでも続いていて昨夜の話も思い出され、傘なんて気にならなくなった。 京都で再び四条に降り立つ。京阪線に乗り換える途中で本屋に立ち寄り「キャッチャー・インザ・ライ」を買う。村上春樹が翻訳をした「ライ麦畑でつかまえて」だ。やっと買う決心がついた。前々から読もう読もうとしていた話なのだが、なかなか期を逃していたのだ。今日の気分にとてもちょうどいいような気がしたんだ。 家に着いた頃にはすでに真っ暗で昨日、今日であれだけ多くの人と一緒にいたのに、結局帰っても家には誰もいない。寂しいとかではなく、妙に不思議な気分になった。スーツを脱ぎかけた時、昨日貸したカーディガンがきちんとたたまれ、ベットに置いてあるのを見て、少し笑ってしまったのだ。 またいつか会えるだろう。四回生にも、サカモトやたっちゃんたちにも、あの子にも、宮野にも、そう思うことが今は出来る。
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