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小さな冷たい手や 冬の日の髪の匂いも
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国道九号線をただひた走る。 腕が痙攣を起こし、肩がつりそうになるがそれでもアクセルを回し続けた。むしろ今はそれしか出来なく、止まってしまうのが怖かった。80キロでメーターを維持して走り続けた。同じ速度で走っていると、走っているはずなのに、なんだか止まっているような気分になっている。それがどうしようもなく辛かった。 中国山地を超える時はやはり寒さを感じる。道は空いており、トレーラーを何台も越していく。わざと対向車線から抜きにいく。対向車が来るか来ないのか、のスリルを味わうことで確かに生きている実感が得られるのだ。二年前は同じ道で越され続けていた。今度は越し続けている。それでもあの頃と何も変わっていない。何個もの山を越え何個ものトンネルを潜る。とても長いトンネルがあり、先の光も見えなくて、トンネル独特の湿度と轟音を聞きながら走ると、トンネルが終わった瞬間にすべてが夢だったのではないかという理解不能な感情にかき乱されるのだ。 そして海だ。海を見た。 西日が反射される海を見た。鼻をかすめる潮風を、目に焼きつく夕日を忘れてしまっていた。 何よりも空。 都会の空とはやっぱり違う。夕暮れの色も雲の形も、全て違うのだ。 家に着くと、普通に御飯が出てきて、普通においしかった。話をして、ボロボロ泣いてしまった。ほんとに久しぶりに泣いたのだ。何年ぶりかぐらいに泣いたのだ。 不思議と恥ずかしいとは思わなかった。 泣きながら、米子に帰る前日のことを思い出していた。 昼に最終面接への案内の電話があった。明日、来て欲しいとのことだ。明日は米子に帰る。だから、最終面接を断った。それくらいの価値が明日にはあると、瞬間的に思ってしまったのだ。電話を切った後の後悔は今は思い出さないでおく。 夕方、ポストを見ると、高校の時に仲良かった人から手紙が届いていた。もう何年も会っていなかった。明日米子に帰ることを知っているかのようなその手紙の内容だった。すぐに返事を書いてポストに入れた。 手紙を出して部屋に戻りパソコンを開くと、二次選考落ちの連絡が来ていた。もう慣れた。これで30社目であろうか。慣れた分だけ、何かが遠のいている気がする。 滅入ってタバコを吹かしていると電話が鳴り、呂律の回っていない声で迎えに来いと言われた。迎えにいくと、ただの酔っ払いがそこにいて、稲荷大社に行きたいと大声で騒ぐから、仕方なく気が済むまで参拝させてやることにした。鈴を勢いよくひっぱりまわすモノだから、あわてて止めた。半分担ぎ込む形で部屋に二人でついて、そして眠った。でも眠れなかった。 満たされないものばかりで、思うように全てが進まず、一年後、いったい何処で誰と何をしているのかすら、今の自分には想像できないでいる。そして想像しようとしないでいる。 寝息に耳を傾けながら、結局すべて人は一人で生きなければならないのだと悟った。そう前日の夜に気づいてしまった。 たぶんこんな感情も大学卒業後の進路が確定した瞬間に忘れてしまうだろう。こんな気持ちを忘れて、人が変ったみたいに、明るくなるんだろ。そんな自分が嫌だ。 小さな冷たい手や、冬の日の髪の匂いも 何かを伝えようとして震え気味になる声も 忘れないでって云ったっけ?忘れないと答えた。 酷く赤い傷痕も、いつかはこんな気持ちも 全て、全部、何もかも忘れてしまうのに!
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